レンズの詩学

アート批評、戦略論、雑感など

写真鑑賞論② 〜被写体の向こう側〜

 前回の続き。じゃあ、どういう写真が「アート(表現)」といえるのか。その具体的な例示と読み解きをしてみようと思うんだわ。

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ここに1枚の写真がある。まずはなんの先入観も持たずに眺めてみてほしい。

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1970年代にアメリカで興った「ニューカラー」というムーブメントの旗手であったウィリアム・エグルストンを代表する、写真史の流れを大きく変えた作品。 一見すると、なんの変哲もない凡庸な写真のようにも思えてしまえるんだが、この写真が撮られた時代背景が理解できると見え方が一変する。

 

この作品が撮影された時代のアメリカというのは、膨張する資本主義による経済システムと技術革新によって急速に生活者の環境が変わりはじめた時期だった。都市部には高層ビルが建ち並び、利便性を追求した工業製品が次々と市場に投入された。そんな文明発展による風景の変化をエグルストンは敏感に感じて危機感を抱いていたのかもしれない。いわゆる古き良きアメリカ南部の原風景を留める住宅地を背景にしている。推測ではあるが変貌する都市の風景を横目に、まさに今しか撮れないという思いで撮られたものではないだろうか。

 

これといった特徴のない住宅に、ハンドルは錆びて車輪には泥のついた三輪車。記憶からも遠ざかり、やがては消えゆく郊外の風景を、三輪車という「幼年期」を象徴するアイコンを主体にすることで郷愁を誘っている。さらに彼が生涯にわたってこだわり続けたテネシー州メンフィスという地元への愛情をも感じさせるものになっている。改めて作品を見返してもらうと三輪車の存在感が際立って見えるはず。エグルストンはこうした具体物をとおして、実は“時間”を撮っていたんだ。

 

さらにもう1枚、紹介しよう。

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これまでの記事でも幾度か紹介したヴォルフガング・ティルマンスの作品。現代を代表する作家として写真以外の方面からも評価されてる人なんだが、彼の作品はとくに観念的で難解であることでも知られてる。ちなみに彼は偉大な芸術家の先例に漏れず同性愛者でもあるんだが、そんな一面が溢れんばかりの感性を際立たせているのかもしれない。

 

彼の一連の作品はプライベートとパブリック、パーソナルなことと政治的なことという二項対立を題材にして、現代人はどう振舞うべきかをテーマにしたものが多い。エグルストンと同様にどれも生活の中の一コマを切り取ったものになっている。この作品もなんてことのない写真のように思えてしまうのだが、日常の中に潜み、人間本来の営みを侵食しつつある経済原理の姿が見え隠れしてはいないだろうか。彼はそういったシリアスで政治的な問題を、見事な構図と鮮やかな色彩の中に浮かび上がらせ、ナーバスになりがちな社会的な問題意識を視覚的な「美しさ」の中に表現している。

 

と、ここまで1枚の写真を切り口にして、写真家が表現した主題を俺なりの解釈で解き明かしたんだが、写真というメディアの特色として複数枚の写真によって作家が扱うテーマを浮き彫りにすることもある。次に掲載する3枚は大同朋子さんという日本人写真家の作品。

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ハッセルブラッドという中判カメラで撮影されたと思しきモノクロームによるスクエアフォーマットの3枚。これらもまた、まぎれもなくアメリカの風景が写し撮られたものなんだが、彼女の場合は日常的に目にする人工の構造物の中に何か超自然的な存在の気配やメッセージを見出しているのではないだろうか。多少オカルト的な臭いがしてくるんで恐縮だが、それはたとえば霊的なものであったり、生命を超越した何かかもしれない。

 

そこまで確信的に撮っているかどうかはわからないんだけど、なんとなく自分が心惹かれる光景や、偶然ふと目にした先に映し出される必然的な何かの痕跡。そして自分に向けて発せられた何かのメッセージ。一見するとバラバラに起こっていることが実はひとつに繋がっているのではないか、そういう彼女独自の視点というのがありありと感じられる作品群になっていて俺が個人的に好きな作家の一人だ。

 

以上、現代写真の中でも比較的わかりやすいと思われる3作家の作品を見てきた。前回の記事の内容と合わせて、少しでも理解の一助になったら嬉しいよ。写真鑑賞で大事なことは、なんかよくわからないけど何故か心奪われる…そーゆー感覚がすべてなんだってこと。大切なのはそこに写っているものの向こう側なんだって話。

 

次回以降もまた、このシリーズは続けて書いてくよ。

 

 今回の記事で紹介した作家のおすすめ写真集:

rasen.stores.jp