レンズの詩学

アート批評、戦略論、雑感など

“井穴刺絡”の神秘

いつだったか、いわゆる自律神経の疾患を患って不眠症になったことがあった。心療内科に通ったりしてなんとか元の体質に戻すことができたのだが、その時から「休息法」が俺にとって大きな課題になった。

 

自律神経というのは交感神経と副交感神経という2つの神経系から成り立ってて、交感神経は人間が何かしらの興奮時や活動をしている時にはたらく神経でストレスの量や質と密接に結びついている。反対に副交感神経というのは休息時や睡眠時などリラックスしている時にはたらき身体機能を抑制している。通常はこの2つの神経系がうまく協調することでオンオフの切り替えによって心身のバランスを保っているのだが、俺の場合は交感神経がはたらきすぎてて常に脳みそが覚醒している状態だったんだ。

 

どうやって副交感神経をはたらかせるかというのがずっと課題で、たとえばアロマ系のリンパマッサージや整体なんかを試してたんだが思うような改善は見られなかった。お寺に座禅に行くようになってから「力の抜き方」が多少わかるようになったが、依然として決定的に安らぐ、リラックスするという状態を作り出せないで困っていた。

 

最近、人づてに自律神経の調整に「井穴刺絡(せいけつしらく)」なる療法が良いらしいよってのを聞きつけ、臨床してる鍼灸院にさっそく行ってみた。俺自身なんのこっちゃわからんのに「セイケツシラクでお願いします!」つって。ノリノリで入ってったぐらいこの療法について無知だったんだわ。

 

井穴刺絡は「井穴」といわれる各々十二経路を代表する5大重要ツボのひとつで、指先の爪の生え際に特殊な針を刺すことで出血をうながし刺激を加える東洋医学の療法らしい。

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出典:常滑市の鍼灸専門治療院《竹内はり灸院》

 

早い話が指を切って血を出すことで免疫力をあげようってだけのシンプルな話なんだが、これが驚くほど効果てきめんだった。実際にどう施術するものなのか、次の動画を見てもらうとよくわかる。


井穴刺絡1 副交感神経の抑制

 

施術開始からものの10分くらいで、うとうとと眠気が漂いはじめる。この療法が特徴的なのは、自律神経の不調はお腹の張りに現れるとして腹診から施術を組み立てていくことだ。実際に自身で触ってみても下腹部を中心に筋肉ではない、強い張り感が自覚できた。

 

施術してくれたのは院長で、もともと飲食業をやってた料理人だったらしく、お店もかなり繁盛してたみたいなんだが、ある日、鍼灸医療を体験してその効果に感動。そのまま施術した鍼灸師に「弟子入りさせてくれ!」って頼んだことから東洋医療に魅せられ第二の人生をスタートさせたってゆー破天荒な人で、一癖も二癖もありそうな人。

 

このクセ者の院長が、張っている部位をしばらく触ってろっていうから手で押さえてた。すると井穴に針を刺してから2、3回も血を出すと、この腹部の張りがみるみる無くなってくではないか。ことあるごとに院長が深呼吸してみろとも言うんだが、たしかに呼吸もどんどん深くなっていく。最初は身体の緊張が解けていないので完全に肺呼吸。ところが一刺し・二刺ししてくごとに呼吸位置が下がっていって、最後は難なく腹式呼吸になっていた。う〜ん、東洋医学おそるべし。

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ツボを刺して血を出すってだけなのに、なにゆえこんな効果があるんだろうか。人間の体内には適宜汚れた血が溜まってて。その汚れた血は出口を求めて末端神経が集まる手や足に溜まる。これがいわゆる「冷え性」のメカニズムなんだけど、その末端神経に溜まった血を穴を開けて出すことで汚い血が出血し、あわてて脳が指先にきれいな血を送ろうと指令を出す。この過程で免疫の基本であるマクロファージが上昇し免疫力が上がるという仕組みらしい。

 

実はこの「血抜き」、海外では比較的歴史があるらしく。日本では長らく「身体を切って血を見ること」は西洋医学の外科的な専売特許としてタブー視されてきた。ところが近年になって横浜の医師が出血刺激が神経のはたらきすぎを抑える作用があることを発見したことから「井穴刺絡学」が認知されるようになってきたようだ。この井穴刺絡、手や足だけかと思いきや院長が「ここが身体全体の機能を整えるから」と、なんと俺の頭頂部にも刺絡を施す。もうこの時点ですでにこの施術になんの疑いもなくなっている。俺みたいな血の気が多い人種は余分な血を出すことが最善ってことか…

 

実際に1時間程度の施術が終わった後も心身ともに芯からリラックスしてるのが即効で実感できる。今までこんな身体感覚、味わったことがなかった。そのまま夜半にはストンと眠りに落ち朝方、爽快に目覚める。いつもの寝起きの嫌な感じがない。昼頃には道場に出かけてクラヴマガのトレーニングをするが、いつになく体が軽快で息も上がらず、ハードな技の練習にもスタミナが持続した。こりゃ本物だわ。。

 

と、ここまで激賞してきたのだが、正直言って井穴刺絡は誰にでもオススメできる代物ではない。そもそもが針を刺すってのは巷のリラクゼーションの類みたく気持ちのいいものではなく、むしろ部位によってはちょっと痛い。血が苦手な人も抵抗があるだろう。それに加えて技術としてはシンプルでも知識としてはかなり高度だから、鍼灸院でも高級な部類のお店しか扱ってないのが現状。俺自身も地元の権威みたいな鍼灸院を選んだので初診で1万円弱くらい。しかも単発で施術してもその場しのぎな話で、ある程度の継続性が前提になってくるから経済的自由度が高い人でないと継続できないだろう。

 

ただ指に針を刺すってだけだったら誰でも自前で出来そうだけど、よくよく考えると刺すところはツボなわけだ。下手なとこぶっ刺して刺激した結果どんなことなるかわからんし、実はツボというのはその場所や大きさが日々変化してるらしい。1ミリずれるだけでツボのポイントを外すということも少なくないようで、やっぱり餅は餅屋。ちゃんとしたプロを選ぶことが重要だろうな。

 

それにしても“東洋の神秘”とはよく言ったもので。自らの大事な「もの」や「概念」に執着することなく、むしろ手放す。禅宗に代表される仏教思想がここでも見てとれるよね。なまじ、血なんか出しちまえってゆー。絶対、西洋医学にはない発想。字義どおりの出血大サービス

 

人知を超えた身体性ってのが、まだまだこの分野から発見されんだろうなってつくづく考えさせられたよ。東洋医学って、すっげーな。

 

井穴刺絡学(せいけつしらくがく)

井穴刺絡学(せいけつしらくがく)